最終年度となる平成24年度は、これまでの研究成果を総括し出版することに注力した。その成果が、単著『地中海帝国の片影─フランス領アルジェリアの19世紀』(東京大学出版会 2013年)である。同書においては、これまでフランス史とマグリブ史という別分野の課題としてあつかわれてきた歴史記述を再考し、近代の地中海史を描くことを試みた。そのなかで論述の軸となったのが、本研究の課題である仏領植民地期アルジェリアにおける法制度の多元性である。フランス法とイスラーム法が接合された土地制度(「アルジェリア・ムスリム法」)に関して、立法、法解釈、法の運用の各段階を考察し、いわゆる同化主義の限界と、法域の多元性に裏づけられた空間構造の特質をあきらかにした。中心的な成果となる同書以外に、本年度は国際ワークショップ・ラウンドテーブルに二回参加した。また、アルジェリアで開かれた国際研究集会にも出席し、意見交換をおこなった。こうした海外の研究者、他分野の研究者との交流は、今後の新たな研究計画を構想するうえで非常に有益であった。本研究を通じて得られた成果は、いまだ未開拓の課題が多いフランス植民地史、ヨーロッパ・北アフリカ交流史の分野において、後続の研究の基礎となるはずである。またそれだけでなく、近年さまざまな問題提起がなされている世界史的視野に立った歴史記述のこころみという視点からみても、一定の貢献となるものと考えている。
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