研究課題/領域番号 |
22720238
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
松澤 裕作 専修大学, 経済学部, 准教授 (20361652)
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キーワード | 史学史 / 記録管理史 / 同時代史 / 歴史認識 / 修史事業 / 明治維新 |
研究概要 |
本年度は、研究計画に掲げた課題のうち、以下の二つの方向において研究を推進した。 第一に、同時代史編纂物を生み出した修史部局の構成員たちの歴史意識を分析することである。とりわけ、「記録」と「修史」の二つの事業の関連性を探るという点から、記録部局において『特命全権公使米欧回覧実記』の編纂に従事した後、修史部局を代表する歴史家となった久米邦武に、および同時代史編纂から古い過去の編纂へと修史部局の事業の主軸を転換させたという点から重野安繹に、それぞれ注目し、両者の「正史」編纂の社会的有用性の認識に差異があったこと、また重野においては時期によっても歴史書編纂の目的や意義に変化が生じることを明らかにした。これとかかわり、歴史記述をめぐる理論的考察・比較史的考察にかかわる研究文献を収集した。 第二に、修史部局が地方統治との関係で編纂した同時代史編纂物である『府県史料』についての分析を試みた。影印・活字化等で刊行されている「府県史料」類(山口・神奈川・新潟・山梨)の収集を行い、その構成、内容等について比較検討を行った。とくに、開港場である神奈川、新潟に注目し、外務省外交史料館との外交記録との対照もくわえて、明治初期の外交事務という特殊な地方行政案件が「府県史料」中にどのように記録されるかを分析した。その結果、ケーススタディとして、明治2年の新潟津留問題(新潟からの米穀移出を禁止する措置)について、各種史料中に豊富な情報が見出されることを発見し、国立公文書館の公文書、外務省外交史料館、府県史料の三者を用いたによる事件の立体的復元を試みた。また、「府県史料」編纂過程での府県庁での実態を検討するため、山口県山口市に出張し、山口県立文書館所蔵史料の調査を行った。出張の結果、同文書館には、旧山口藩主毛利家と修史部局との往復書類が所蔵されていることも判明し、撮影を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
修史部局の同時代史編纂物のうち、「征西始末」をめぐる情報のあり方についてはほほ解明を終え、成果も発表することができた。また、同時代史編纂物を生み出した背景となる歴史意識についても研究を進め、成果を発表した。「府県史料」についての分析も順調に進展している。これらすべての研究の基盤となる東京大学史料編纂所所蔵修史局・修史館文書の整理も終了し、公開に向けた準備が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
分析の対象としている同時代史編纂物のうち、「府県史料」の分析を継続し、また『明治史要』の分析にも取り組む。そのため、修史部局の情報授受関係の総体的把握をめざし、公文書類の比較研究を推進する。最終年度内に、研究全体を総括する研究論文を執筆・発表する予定である。
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