本研究の課題は、彗星や日食などの天変に対する近世日本の為政者の態度を検証し、天変をめぐる政治文化の近世的特質を解明することである。平成22年度は藩主と天変の関係を示す史料の調査と収集に重点を置き、以下の調査を実施した。(1)国文学研究資料館にて、宝永元年(1704)までの『弘前藩庁日記』マイクロフイルム版(原本は弘前市立弘前図書館所蔵)を調査。(2)弘前市立弘前図書館にて、宝永2年以降の『弘前藩庁日記』及び周辺史料を調査。(3)鳥取県立博物館にて、『控帳』『御用部屋日記』をはじめとする鳥取藩の各種藩日記と周辺史料を調査。(4)金沢市立玉川図書館近世史料館にて、『葛巻昌興日記』『大野木克寛日記』ほか金沢藩士の記録を中心に調査。(5)山口県文書館にて、『日帳』『密局日乗』をはじめとする萩藩の各種藩日記を調査。以上の調査により、以下の成果が得られた。(1)近世中期以降、いずれの藩においても、藩士の登城時刻を日食予定時刻の前後にずらすという幕府と同様の措置が取られていることが確認できた。これにより、近世には、天皇と将軍のほかに藩主も日食を忌避していたことが明らかとなった。(2)萩藩の記録『密局日乗』にて「稲星」の記録を発見した。これまで稲星は民衆の間に広まったフォークロアであると考えてきたが、この事例により、藩の記録に登場する程度にまで流布していたことが判明した。(3)儒者や兵学者に対し、天変に関する知識が求められる事例が見られた。こうした事例は、天変に関する知の所有者が多様であったことを示しており、平成23年度も新たな事例の発掘に努めたい。
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