本研究の課題は、彗星や日食などの天変に対する近世日本の為政者の態度を検証し、天変をめぐる政治文化の近世的特質を解明することである。平成23年度は以下の調査を実施した。1藩主と天変の関係を、弘前市立弘前図書館・金沢市立玉川図書館近世史料館・佐賀県立図書館・国文学研究資料館にて調査。2将軍と天変の関係を、国立公文書館にて調査。3天皇と天変の関係を、京都府立総合資料館・津市津図書館にて調査。平成23年度の調査により、以下の成果が得られた。1藩士の登城時刻を日食予定時刻の前後にずらすという措置は、新たに調査対象とした佐賀藩と松代藩のいずれにおいても確認された。同様の措置は平成22年度の調査対象とした弘前藩.加賀藩・萩藩でも確認できることから、日食の忌避は、近世の天皇・将軍のみならず、藩主にまで広く共有された慣行であったといえる。2将軍の日食忌避は小規模な日食に及ぶのに対し、藩主の場合、小規模な日食まで忌避した事実は必ずしも確認できなかった。後者の日食忌避は、日食に起因する光量不足への懸念が原因だった可能性もある。3朝廷で天文を司る陰陽頭土御門家の家塾斉政館で都講を務めた小島濤山は、彗星を恐れる必要はないと主張する一方、彗星を軌道を有する天体とする西洋近代天文学の説には否定的な見解を示していたことが明らかとなった。この他、天保14年(1843)の天変に対する人々の反応に関する研究と天文書『天経惑問』の受容に関する研究を行い、それぞれ口頭発表を行った。
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