本年度は、初年度の遺漏調査を行うとともに、当該期の東京を対象に、土建請負業の業態と日雇い労働者が土建請負業者に吸収されていくプロセスを明らかにし、土建請負業が政党と結びつく社会的な背景を解明するための調査・分析を行った。資料の収集整理にあたっては、アルバイト1名を雇用して効率的に進めた。 遺漏調査については、東京弁護士会・第二東京弁護士会合同図書館の裁判記録のうち、土木建築請負業が中心的にかかわった鶴見騒擾事件記録・盛岡有田組事件記録・伊藤金次郎外九名殺人事件記録の調査・分析を行った。 社会的な背景については、まず当該期の土建請負業の実態に関する調査として、建築産業図書館所蔵について調査し、東京土木建築業組合に関る資料を収集・分析した。東京地方職業紹介事務局の調査報告書を収集・分析した。次に日雇い労働者の実態に関する調査として、草間八十雄の一連の著作集や、東京市社会局の調査報告書を収集・分析した。 昨年度・本年度の調査・分析を総合して、学術論文・シンポジウムなどにおいて成果報告を行った。学術論文では、日雇い労働者の生活実態まとめ、独自の生活文化が彼らの政治意識と密接につながることを明示した(「戦前日雇い男性の対抗文化」『歴史評論』737)。シンポジウム報告では、土木建築請負業の労資関係の全体像を示したうえで、その動員力が政党政治期における院外団体の形成につながったことを指摘した(「戦前の都市下層労働と任侠文化」、シンポジウム「(日本)都市の制度と社会・文化」)。また、初年度に調査・分析を行った大和民労会・大正赤心団・大日本国粋会に関する成果の一部は、博士学位請求論文『近代日本都市暴動の民衆史的研究』の各章にまとめ、2012年2月に早稲田大学に提出した。
|