本申請研究は、研究がまだ途についたばかりの令前の文書木簡を主たる対象とし、樹種をはじめとした木簡のモノに即した検討と、古文書との比較研究の成果とを踏まえつつ、日本における文書行政の成立過程を明らかにせんとするものである。初年度は、令前木簡、帳簿などの古文書史料の熟覧調査及び写真撮影によるデータ収集に努めるとともに、全国出土の令前木簡の現物を借用し、資料の展示公開をおこなった。 資料の熟覧調査及びデータ収集は、資料館の展示事業や、研究代表者が勤務する奈良文化財研究所と桜井市教育委員会とがおこなった連携研究等の機会を利用し、効率的にすすめた。今年度に対象とした史料は、奈良県安倍寺跡、大阪府難波宮跡、同桑津遺跡、同細工谷遺跡、同森の宮遺跡、兵庫県三条九ノ坪遺跡、静岡県神明原・元宮川遺跡、埼玉県小敷田遺跡、滋賀県北大津遺跡、同西河原遺跡群、同十里遺跡、同南滋賀遺跡、長野県屋代遺跡、福岡県元岡・桑原遺跡、同井上薬師堂遺跡から出土した木簡であるが、これにより、奈良県内の遺跡から出土した木簡を除くほとんどの令前木簡の熟覧・写真撮影を終えることができた。調査知見や再釈読の成果は「木簡黎明」展図録の解説原稿等に記したが、同展は1万名余りの観覧者を得、概して好評を博した。今年度調査した令前木簡のうち、赤外線機器の技術の進歩によりとりわけ顕著な成果が認められた北大津遺跡の音義木簡について、新たな釈文を学会にて発表した。また、古代文書のうち帳簿との関係を検討する史料として、東京芸術大学蔵延喜5年観世音寺資財帳のカラーポジを借用し、記載内容や書誌の検討をおこなった。
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