本申請研究は、研究がまだ途についたばかりの令前の文書木簡を主たる対象とし、樹種をはじめとした木簡のモノに即した検討と、古文書との比較研究の成果とを踏まえつつ、日本における文書行政の成立過程を明らかにせんとするものである。最終年度にあたる24年度には、文書木簡の出土している遺跡を中心に検討をおこなった。 主な成果は次の通りである。①申請者の勤務する奈良文化財研究所が保管する藤原宮跡西方官衙地区・西南官衙地区及び西面区画施設の出土木簡について報告原稿をまとめた。この一群の木簡は、ヒノキ科・板目(又は追柾目)が9割以上を占め、スギもしくは柾目の材は数%にとどまることが明らかになった。②令前の文書が出土している地方遺跡の調査をすすめた。埼玉県小敷田遺跡(木簡黎明展未展示分)・同西別府祭祀遺跡、鳥取県良田平田遺跡、石川県金石本町遺跡の出土木簡につき、熟覧調査、写真撮影をおこなった。③23年度に刊行した『藤原宮木簡三』の成果を踏まえ、木簡企画展示「埋もれた大宮びとの横顔―藤原宮東面北門周辺の木簡」を開催し(4月7日~5月6日)、40点の木簡を展示公開した。 また、これまで3年間にわたる調査成果を踏まえ、地方出土の令前文書木簡の釈文の最新版を集成した「令前文書木簡集成(稿)釈文編」をまとめたほか、令前の紙の文書と木簡の関係を考究する総論的な論考「オシテフミ考―大宝令制以前の文書について」を成稿し、『文化財論叢IV』に寄せ公表した。
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