本年度(平成23年度)は、明代官僚機構内部の身分秩序とその原則について考察を行った。その際、官僚機構の構成員全体を対象とするのは困難でもあり、またかえって焦点がぼける可能性もあると考え、科挙における試験官(考試官)にターゲットを絞り分析を行った。その結果として、考試官の序列には、 (1)衙門間の格式序列(翰林院、科道官、部曹) (2)衙門内部の官品序列 (3)進士合格年度の前後(進士としての先輩後輩関係) (4)進士合格時の順位 (5)庶吉士散官時の順位(進士合格順位よりも優先される) これらの諸要素が厳密に適用されていることを明らかにした。また同時に、序列上位の試験官に採点された受験生の方が、科挙名簿に収録される模範答案(「程文」)として採用されやすい傾向があることから、所謂「科挙名簿」は、上位考試官の実績を反映させやすく、その意味において考試官の「業務報告書」としての性格を持つこと、また受験生にとってはどの考試官に採点されるかは、答案が機械的に考試官に配分されるため運に左右されるものの、そのことには重要な意味があったことを実証した。 以上の内容を、応用科挙史学研究会第五回ワークショップ(8月、仙台市、東北大学)にて発表討論し、諸先生の意見を得て修正した。その上で第八届科挙学国際会議(9月、中国武漢市、武漢大学)において「明代会〓 考官初探-以《会〓 〓 》〓 中心-」という題目で発表し、多方面の科挙研究者から有益な助言をえた。 また、同国際会議において、「科挙学」の現状について認識を深めることができ、その一端を「科挙研究の現状と「科挙学」」(1月、京都府立大学)として発表し、諸先生の指導を仰ぐことができた。
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