本年度(平成24年)は、明代会試の試験官制度について研究を更に進めた。具体的には「執事官」と呼ばれる、採点以外の業務を担当する官僚について分析を行った。これは既に行った「考官」(採点官)研究と相補的な位置を占めるものである。 この研究を通して、明代の執事官の構成は、以下の四つに期間に区分して考察する必要があるとの見通しを得た。 ①第一期洪武期②第二期景泰二年まで③第三期景泰五年~嘉靖年間まで④第四期隆慶年間以降 この四つの期間において、執事官の構成には、明瞭かつ特徴的な変化が見られる。このような大きな変化があったのは、「受巻」「彌封」「謄録」「対読」の所謂「外簾四所」において不正が頻発し、それを防ごうとする意図による。また、一般的に想定される、当時の官僚社会内部における「進士」偏重の傾向とは全く異なる執事官の構成が、しばしば試行的に(場当たり的にさえ見える)採用されていることも明らかであり、人事上の要素や政治的な背景などもあったように見受けられる。しかし、第二期から第三期の移行の背景が、史料に明示されるのに対し、少なくとも第三期から第四期への移行期については、その背景を語る史料は多くは無く、まだ不明な点も多い。更に検討を重ねることによって、通時代的な試験官制度変容を把握する必要があると思われる。 以上の内容を、応科研一三回研究集会(3月、東北大学)にて「明代会試試験官に関する一考察-執事官を中心に-」というタイトルで発表討論し、参加した諸先生から様々なアドバイスを得ることができた。
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