本研究は、清朝治下のモンゴル遊牧社会において、清朝の統治制度とは別に基層社会を規定していたとされる王公の血統分枝集団「バグ」に関する従来研究を発展させ、さらに、遊牧社会の基層を規定すると考えられる地縁的社会集団の具体的機能さらには両者の関係性を解明することを目的とする。さらに清朝統治・王公支配・地縁結合といった各種の問題を包括した新たなモンゴル遊牧社会像の構築を目指す。 具体的な調査方法は、性質の異なる複数の地域を調査対象とし、歴史学的アプローチに加えて現地調査などを組み合わせる。それにより、個別地域の事例研究にとどまらず、近代史や文化人類学など周辺の研究分野ともリンクできるような社会像の構築を目指す。 本年度は、初年度に当たり、海外調査による基本史料の収集とその整理、インフォーマントからの基礎情報の収集を中心に行った。海外調査は、2010年9月にモンゴル国で、2011年3月に中国において行い、史料の収集に当たったほか、現代遊牧地域における地縁的結合および内モンゴルにおける過去の地縁集団について聞き取り調査を行い、新たな知見を得た。ランドマークとなる特徴的地形や気候・植生などのなかで、遊牧民がいかに生活圏を形成していくか、季節移動や時々の行政組織との関係について、次年度以降さらに現地調査を進める予定である。 研究成果の公表については、モンゴル語論文1編と3つの学会発表を行った。特に12月の発表では、本研究に直接関わる研究史を整理し、今後の課題について展望した。この成果は来年度投稿予定である。
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