研究課題/領域番号 |
22720263
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
塩谷 哲史 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30570197)
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キーワード | 中央ユーラシア史 / ヒヴァ・ハン国 |
研究概要 |
本年度は、博士論文の作成(平成24年2月16日博士(文学)号取得)および助教への転任が重なり、とくに海外での史資料調査の面で、当初の研究計画を十全に達成できたとは言い難い。それでも博士論文には、本研究課題の中心となるアムダリヤ水利権問題、19-20世紀初頭のトルクメン問題の展開の考察を盛り込み、文章化することができた。とりわけ、1899年ホラズム地方中部の運河建設の結果として発生したトルクメンの騒擾が、1920年代のウズベク・トルクメンの対立の直接的端緒となり、1924年の民族共和国境界画定によるホラズムの政治的一体性の喪失につながっていたことを発見できたことは大きい。これにより、19世紀から20世紀初頭にかけてのトルクメン問題の具体的なメカニズムとその特徴が明らかになってきた。 また、海外調査に関しては、平成24年3月ロシア国立歴史文書館、ロシア公共図書館、ロシア国立科学アカデミー東洋写本研究所、およびイスタンブルのトルコ共和国総理府オスマン文書館において関連史資料の調査を実施した。 さらに研究成果については、平成23年6月の中央アジアの法制度研究会において、アムダリヤ水利権問題の端緒となったイチャン・カラ博物館蔵3894文書の文書学的特徴を明らかにした。また平成24年1月の「ユーラシアの近代と新しい世界史叙述」の研究会においては、「開発」をキーワードに、本研究課題の持つ現代的意義ついて報告を行った。さらに平成24年3の月香港アジア学会The Asian Studies Association of Hong Kongにおいて、19世紀から20世紀初頭に至るヒヴァ・ハン国(ウズベク)とトルクメンとの関係の変遷、およびロシア人の灌概計画のその関係に対する影響(民族間紛争の勃発)について、英語で口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文書研究、灌漑史、金融史の融合的な研究、およびトルクメン問題に注目した中央アジア南部定住オアシス地域における民族間関係をめぐる考察は、順調に、一部は当初の計画以上の進展を見せ、それらを博士論文(「中央アジア灌漑史研究序説-ラウザーン運河とヒヴァ・ハン国の興亡-」)の第2章から第4章にかけてまとめることができた。また史資料収集も順調に進んでいる。ただし歴史地域学の方法論との接合はまだ十全に成し遂げられているとはいえず、また学会発表内容の論文化および出版については、投稿前の原稿状態ないし公刊待ちが多数であり、これらを進めることが急務の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後第一の課題は、すでに活字化されている原稿の論文化と、それらを土台にした単著の出版準備を進めることである。後者に関しては、出版社(第一候補は筑波大学出版会)と、なるべく早い段階での出版に向け協議を行っていく必要がある。またユースポフ『歴史』の公刊作業を引き続き進めていく上で、ヒヴァのイチャン・カラ博物館の研究員カーミルジャーン・フダーイベルガノフ氏を中心としたウズベキスタン共和国の東洋学研究者たちとの連携を、研究代表者自身の訪問と打ち合わせの実施を通して、強化していくことが必要である。
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