研究概要 |
本年度は、当研究課題の最終年度にあたるため、その成果を『中央アジア灌漑史序説―ラウザーン運河とヒヴァ・ハン国の興亡―』(風響社、2014年2月)と題する単著にまとめ刊行した。なお刊行にあたっては、平成25年度科学研究費助成事業・研究成果公開促進費の交付を受けた。本書では、中央アジア南部定住地域の一つであったホラズム・オアシスの一運河(ラウザーン運河)周辺で、19―20世紀初頭にかけての約120年間の間に行われた灌漑事業とその間の自然環境の変化に焦点を当て、16―20世紀初頭にかけてホラズムを支配したヒヴァ・ハン国政権、18世紀末からホラズムで定住化過程にあったトルクメン遊牧集団、1860年代以降中央アジア南部定住地域にその支配を拡大させたロシア帝国政府、そして帝国の首都サンクト・ペテルブルグを中心に活動する企業家それぞれの相互関係のあり方と変化を明らかにした。そして、アムダリヤの水資源にもとづく人工灌漑網に依存したホラズム社会が、帝国中央の政治・経済変動と連動しながらロシア帝国権力のもとに統合されていく一方で、社会内に遊牧集団を包摂できなくなっていく過程を提示し、遊牧民と定住民の不断の接触の場であったホラズムの地域的特質がロシア帝国権力との遭遇により変化していったことを明らかにした。 なお本年度は、本書の内容と関連して、4月にケンブリッジ大学(英国)で開催された BASEES/ICCEES 大会をはじめとした研究報告を4回にわたり行い、またブリル社より刊行された編著(P. Sartori (ed.), Explorations in the Social History of Modern Central Asia, 19th- Early 20th Century)を分担執筆した。また8月には、カザフスタン共和国中央国立文書館において関連史料の収集・分析を行った。
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