マムルーク朝期エジプトにおける、土着の単性論派キリスト教徒であるコプトと、多数派であるムスリムとの関係を考察するために、キリスト教徒にもムスリムにも崇敬されたコプト聖人の活動を研究している。本年度は、1、コプト聖人伝写本の網羅的収集、2、聖人の伝記や奇蹟譚に現れる当時のコプト社会の状況分析、を行った。具体的活動としては1、エジプト調査:9/20-10/1にかけ、エジプトのカイロとワーディー・ナトルーンを中心に教会や修道院、図書館を巡り、写本を閲覧した。現地研究者に協力を要請し、新たな写本所蔵先の情報収集や情報交換に努めた。2、写本情報の整理:帰国後、収集した写本の情報(記述内容や写本系統)を整理した。成果の一部は平成23年5月に開催される日本中東学会年次大会にて報告予定である。3、イタリア、学会参加:10/10-17にかけ、イタリアのフィレンツェで開催されたInternational Association for the Study of Middle Arabic and Mixed Arabicの第3回国際学会に参加し、研究者と情報交換を行った。本研究が扱う言語(Middle Arabic)の特徴に関しては未解明な点が多く、最新の動向を把握できたことは大変有意義であった。4、スペイン、学会報告:12/12-19にかけ、スペインのマドリードで開催されたスペイン科学高等研究機関(CSIC)主催の若手研究者報告会、Mediterraneosにて、14世紀コプト社会の状況について報告した。欧米や中東から大勢の若手研究者が集まり、国際的な学術交流の場となった。コプト史研究はエジプト及び欧米各国からなる多国籍なフィールドであるが、平成22年度はこのように積極的な国際交流や情報交換を行い、イスラーム史とコプト史の狭間に位置するこの研究を深化させた。
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