研究課題/領域番号 |
22720266
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増田 知之 京都大学, 文学研究科, 講師 (60559649)
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キーワード | 清代 / 文化史 / 書法史 / 法帖 / 皇帝 / 御書 / 御刻法帖 |
研究概要 |
本研究は、「書」文化の伝播に重要な役割を果たした法帖を取り上げ、その需給が最も拡大した清代における刊行事業の実態に迫ろうとするものである。特に、清朝の最盛期である康熙~乾隆期に焦点を絞り、満洲族皇帝たちが中国支配を確立し、その伝統文化を取り込んでゆく過程でおこなった、法帖刊行など種々の「書」活動の実態を解明することによって、皇帝権力と「書」との関係を明らかにする。本年度はまず(1)昨年度に引き続き、清代に刻された法帖のデータベース化作業を進めた。『叢帖目』・『中国法帖全集』等の基本資料をもとにしたデータ化はほぼ完了しており、更に他資料を用いてデータの増強に努めている。次に、(2)清朝皇帝と当時の「書」文化との関係を明らかにすべく、昨年度に引き続き康熙年間について重点的に検討を加えた。以下、その概要を示す。『皇朝通志』によれば、康熙年間に406件、雍正年間に59件、そして乾隆年間に1494件の「御書(御刻法帖含む)」が刻石されており、皇帝の「書」が中央のみならず地方の隅々にまで伝播していた実態がうかがえる。また、これら御書は「下賜」という形で広まったものであり、起居注・奏摺等の档案資料によると、大量の御書下賜の背景には、圧倒的多数の漢民族らに「仁政」を広めようとした康熙帝自身の政治的意図があったことを指摘できる。更に『国朝宮史』によれば、康熙年間において、20を超える法帖が康熙帝の勅命によって刊行されている。康熙29年刻の『懋勤殿法帖』には、康熙帝による法帖刊行事業に対する意義が明確に述べられている。すなわち、本帖の刊行事業は「書」文化を重んじた唐太宗・宋太宗の業績を受け継ぐものであること、ひいては清朝を明朝の後を承けた正統な王朝として位置づけ得ること、更には「書」の教化性を前面に押し出し士人教育の一環とすること、等である。尚、(3)康熙帝の「書」活動について、本研究の中間報告として学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
清代の法帖のデータベース構築、関連史料の収集・分析等、本研究を遂行するための基本的作業については概ね計画通り進捗しているといえる。特に、清朝皇帝と「書」文化との関係について、従来の諸研究では指摘されなかった諸事実を新たに提示することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、清代法帖のデータベースを構築すべくデータの増強に努め、その完成を目指す。国内外の法帖所蔵機関における現物調査についても継続して行い、新たな知見を獲得する。また、康熙年間以降、乾隆年間に至るまでの皇帝権力と「書」との関係の更なる解明のため、皇帝周辺で活躍した人物の文集・随筆史料はもとより、档案や地方志等の諸史料にも目を向け、それらについての徹底的収集・読解を行う。本年度は本研究の最終年度であるので、これまでの研究成果を総括すべく研究論文をまとめ公開する予定である。
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