研究概要 |
本研究課題の初年度である本年度は、文献史料の収集・整理及び現地における予備調査に重点をおいた。これまでに収集した史料の整理を進めつつ、本年度の予備調査の対象となる中国陜西省銅川・富平・三原・〓陽・咸陽、及び次年度以降の現地調査の対象となる地域の石刻史料・出土資料の情報を行った。また、足利市の華雨蔵珍之館においてモンゴル時代石刻史料の拓本を閲覧・調査し、本研究課題に重要な知見を提供する史料も発見した。 現地における予備調査では、まず陜西師範大学の研究者と会合の機会を得て、情報の提供を受け、また今後の協力関係を構築することができた。出土資料に関しては、西安博物院・〓陽博物館でモンゴル時代の陶俑を実見調査できた。石刻史料についても、各博物館を中心として多くを実見調査することができた。同時に調査対象地域の、とくに農村部における石刻史料が危機的状況にあることを知るに及び、本研究課題の調査研究の重要性を再確認することとなった。 すでに公表された成果は、論文2件・学会発表2件である。そのうち、モンゴル帝国時代華北の多元社会の一端として出現した言語接触に関して、「古本《老乞大》与蒙文直訳体」で従来論争のあった漢語教材『老乞大』の言語的位置づけを確定し、「モンゴル語直訳体の漢語への影響-モンゴル帝国の言語政策と漢語世界-」においてその歴史的背景を解明した。また、多元社会の関鍵となる「色目人」についても、"The Image of the Semu People: Mongols, Chinese, and Various Other Peoples under the Mongol Empire."において、新たな知見を加え、改めて自説を補強・主張した。
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