本研究は、中央アジアより出土した唐代公文書の古文書学的調査を行い、同時代の東アジア・中央アジアに広く受容された唐代の文書行政システムの具体相を解明しようとするものである。具体的には、中央アジア出土文書を所蔵する海外研究機関での史料調査と、その調査結果の考察・データベースの作成・分析とを交互に進め、帝国全土に張り巡らされた超広域の情報伝達ネットワーク、円滑に情報を伝達するための運用規定、さらにそれらを運営するための行政機構などの復元を目的としている。特に、まだ細部まで解明されていない地方文書行政にスポットを当て、従来のごとく「上から下へ」という上意下達の情報伝達のみに着目するのでなく、「下から上へ」の流れにスポットを当てて双方向の流れを検討し、より立体的な地方文書行政のモデルの復元を目指す。 本年度は、平成23年2月にはロシア科学アカデミー東方学研究所(ロシア・サンクトペテルブルク)を訪問して8世紀に属するコータン出土の漢語・コータン語バイリンガル文書を調査した。従来の研究では、トゥルファン(西州)や敦煌(沙州)など文書が大量に発見された直轄州とは違い、コータンのような覊縻支配地域の文書行政の検討は未だ十分ではなかった。今回の調査は、この覊縻府州内の文書行政が、使用する公文書の種類や機能、伝達経路等の様々な点において内地直轄州と相違点があることを明らかにしえた。 さらに本研究では、唐代のみならず宋・元代に至るまでに、この文書行政システムがどのように変化・受容されたかについても明らかにする。平成22年8月には内蒙古大学(中国・フフホト)を訪問して宋~元時代の漢文文書を調査し、文書の書式や事務処理過程について、唐代公文書との比較検討を行った。
|