本研究の目的は、清朝治下の東トルキスタン・オアシスにおける文書行政について体系的に検討し、清朝統治の実態解明に取り組むことにある。 平成24年度は、学術論文3件(共著を含む)を公表した。このうち2件は、どちらも台湾の国立故宮博物院に所蔵されるテュルク語文書の内容を検証し、その政治的・社会的背景を考察した。特に1848年にコーカンド・ハーン国の使臣がカシュガルの清朝大臣とハーキム・ベグに提出した2件の文書には、清朝治下の東トルキスタンで成立した行政文書の様式、特殊な文書語彙が見られる。ゆえに、コーカンド本国からもたらされたものではなく、カシュガル到着後に清朝の文書行政に通じた人物によって起草されたものであると結論した。もう1件は、清朝の新疆征服時におけるムスリム王公のエミン・ホージャの諸活動を復元し、トルファン郡王家の形成過程を明らかにしたものである。また、当該年度は国際学会を含め、学会発表4件をおこなった。その中においては、1795年にコーカンド・ハーン国の使臣がカシュガルの清朝大臣とハーキム・ベク、およびヤルカンドのハーキム・ベグに宛てた文書3件を材料として、外交交渉、オアシス・レベルの行政、情報収集活動にハーキム・ベクがどのように関与しているのかを具体的に明らかにした。以上の研究を通じて、清代東トルキスタン社会の実態解明には、トルファン郡王家出身者が果たした政治的役割に注目する視角が有効であるとの認識を得た。 また、中国新疆ウイグル自治区のウルムチ・トルファン等に出張し、現地の文書館・博物館で文献調査を実施するとともに、関連する史跡の調査を行った。特にトルファンでは、上述のトルファン郡王家の家系図を調査することができた。当家系図は従来の研究では利用された形跡がなく、今後情報を整理した上で公開し、研究資源としての有効性を広く示していきたい。
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