本年度は、昨年度に引き続き、『元代史研究文献目録1971-1988』(立正大学東洋史研究室、1991)の凡例に沿って、1989年以降に発行されたモンゴル帝国治下中国の祭祀・宗教・文化政策、及び政治・社会など本研究課題の対象となる研究文献の収集・整理とデータベース化を、大学院生を雇用して進めた。特に中国大陸・台湾の書籍収集とその調査、データベース構築を中心に進め、併せて、日本国内での関連研究を収集した。これらの作業・調査を通じて、中国の宗教・祭祀の研究においては、社会や民衆個々の問題と絡めて論じられることは多いが、政治や文化政策との関係を論じるものは多くなく、言及しているものでも近年の歴史研究の成果が十分に生かされていないということがわかった。ただ、その研究成果には、政治や政策研究に有用なデータや主張もあったので、それらを歴史研究に生かすことが今後必要になると考えられる。 また、本課題研究開始以前からの研究成果と、本年度の資料講読の成果を併せて、河南省済源県の済涜廟に現存するモンゴル時代の碑刻資料「皇太子燕王嗣香碑」について、済涜廟管理処の副主任姚永霞氏と共著で、その研究成果を発表した。その論文ではモンゴル時代の済涜祭祀の特徴を論じるとともに、当時の中央の政治状況が地方社会や地方の宗教・祭祀に如何に関わるのかという点を明らかにできた。また、この論文の作成・発表を通じて、済涜廟など現地機関との共同調査や資料公開促進への道筋もできたと考える。さらに、本課題研究の対象とするモンゴル時代の祭祀・宗教のうち、他の岳涜祭祀について詳細に検討する道筋もつけられたと思う。
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