本年度は、最終年度にあたるため、モンゴル政府による祭祀活動の研究成果を公にすることを第一の目標とした。昨年度公刊予定だった中国語による論文「元代的岳涜祭祀:以済涜廟祭祀為中心」は、編集の都合から公刊が本年度になった。これに加え、「モンゴル時代の済涜祭祀―唐代以来の岳涜祭祀の位置づけの中で―」を発表した。これらを通じて、岳涜祭祀が持つ政治的な重要性、とりわけ、モンゴル時代における「領域概念」・「天下概念」との関わりについて、中国の他時代の研究と比較しながら明らかにすることできた。モンゴル帝国の支配によって中国が一つの王朝下に支配された時代となった点が、岳涜祭祀の盛況さと関係があったと結論づけた。また、道教教団と政権の関係を中心に時代的な特色が明らかになっていたモンゴル時代の宗教・文化政策のあり方が、実は、中国の伝統的な王朝の統治政策を踏襲する側面も大きく、特に、理念としては、中国歴代王朝の様態との比較が有効であることもわかった。このような分析方法は、新出・新公刊資料を駆使して、今後も活発になっていくと思われる。 モンゴル帝国治下中国の祭祀・宗教・文化政策などと関連する研究文献の収集・整理とデータベース化(1989年以降)は、外国語文献の収集整理を完了することが叶わなかった。しかし、本課題研究終了後も引き続き整理を続け早期に公刊する予定である。 本課題研究を通じて、済涜廟との学術的な交流も軌道に乗ってきた。外国史の研究では現地との地道な交流が不可欠であり、今後につながる礎を築けたと考える。同時に、本課題で明らかになった成果をホームページで公開した。その内容は現時点では直接的な成果(論文等)の提示に止まっているが、今後、利用者視点の情報を採り入れ、現地のサイトや旅行情報のページと有機的なリンクをはかることで、歴史的な学術成果を広く利用してもらえるように更新を行っていく。
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