1、本年度の計画に従い、「ウラジーミル聖公の教会規定」についての論稿を完成させ、大学紀要に発表した。シチャーポフおよびカイザーの研究成果を批判し、場合によっては批判的に受容した。またこれには研究史上問題になっている四つの編集版(オレニン、シノド、ヴァルソノフィエフ、ヴォルイニ版)の翻訳と解説をつけた。これにより、14世紀までの教会と国家の法的関係についての基本史料の分析を終了したが、但し、この規定と、先年に発表した「ヤロスラフ賢公の教会規定」との比較検討という計画は実施できなかった。この検討により14世紀以降の教会と国家の法的関係の考察が可能になると考えていたが、同時期の「府主教裁判法」の再検討が先に必要であることが判明し、これについて文献を読み進めた。その結果、現在までのところ、中世ロシアの教会と国家の関係史において、一つの局面をなしたとされ、必ず言及されてきたこの法は、そうした大きな法史的解釈の一局面を担う法とは解釈できないという手応えを得ており、この検討結果の発表が次の課題である。 2、中世ロシアの教会と国家の関係についての概観、先行研究をまとめ、ロシア史研究会が24年度発行予定の研究論集に原稿を提出した。これは教会と国家の法的な関係についても扱うものである。また、ロシア正教会成立までのロシア史通史の執筆を行った。これは北海道大学スラヴ研究センター発行の叢書として発行予定の『北西ユーラシアの歴史空間(仮)』の冒頭部に当たるものであり、そのなかで、キエフ時代からのロシア(ルーシ)における教会と国家の関係についても論じた。
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