フランス革命直前の1780年代、フランスのラングドック地方北部では騒擾が多発した。そのため、この地方を管轄下においていたトゥルーズ高等法院は、委員会を結成して現地に派遣し、地域住民の不満を吸い上げ司法制度改革を行うことによって危機的状況を克服しようとした。本研究の目的は、この司法制度改革をめぐって、地域諸権力および住民の間で繰り広げられた地域政治の展開と、そこにみられた秩序観の相克の様を、フランス国立文書館およびラングドック地方の複数の県文書館に収められている一次史料に基づいて明らかにすることである。これによって、地域社会の視点から、18世紀フランスの権力秩序を再考していくこととする。 本年度は、以上のような研究を遂行していくために必要な文献および史料を国内とフランスで調査することに重点をおいた。特にフランスでは、トゥルーズ高等法院の派遣を準備した国王諮間会議とトゥルーズ高等法院の動向を探るために、パリとトゥルーズでの調査を行った。パリ国立文書館では、トゥルーズ高等法院の派遣を決定した国王諮間会議の裁定や、高等法院派遣に関して諸権力から同会議のもとに送付された陳情書などを調査した。また、トゥルーズに設置されているオート=ガロンヌ県文書館では、高等法院の派遣までの動向と、派遣にあたって諸権力と交わした書簡などを調査した。そして、国内およびフランスでの調査を踏まえて、研究動向および史料紹介をまとめ、西洋近現代史研究会で口頭発表をした。これをとおして、1780年代にラングドック地方でおきた騒擾の結果として行われた司法制度改革と、18世紀フランスで生じたとされる「政治危機」の関係を考察する枠組みを整理した。
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