ハプスブルク帝国においては、1880年代から社会政策をめぐる議論が本格的に開始された。申請者の長期的な研究課題は、これらの社会政策をめぐる議論と実現の過程を検討することを通じて、近代ハプスブルク帝国における個と共同性の関係史、個人・中間集団・国家の関係史を描き出し、近代におけるハプスブルク帝国の変容とその特質とを明らかにすることにある。本研究は、その長期的な研究の一環を成し、1893年に帝国政府によって提案された強制加入制の農業組合をめぐる議論を、帝国における社会政策の展開に位置づけつつ考察することを目的とするものである。 研究2年目の平成23年度においては、昨年度収集した史料の分析を進めるとともに、強制加入制の農業組合をめぐる議論をハプスブルク帝国における社会政策の展開に位置づけるため、帝国の社会政策全般についても調査を進めた。 平成23年度は、本研究と並行して、本研究の前提ともなったボヘミアの農業結社に関連する研究を図書として出版する作業を行ったため、当初予定していたように、本研究の成果を年度内に論文として発表することはできなかった。しかし、(1)強制加入制の農業組合をめぐる農務省内の議論、(2)強制加入制の農業組合設立法案をめぐる帝国議会での審議、(3)同法案についての議論が特に活発であったボヘミアの領邦機関・農業諸組織による議論、については、史料分析をほぼ終了し、既に論文を執筆する作業に着手しており、近いうちに学術雑誌に投稿する予定である。 なお本年度の補助金は、研究に必要な史料・文献の購入、史料を補完するための調査旅行の費用に充てた。
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