平成22年度はまず、前4世紀のアテーナイを中心に、外交、政治文化、碑文研究に関する基礎文献を購入し、さらに関係する雑誌論文を入手して、先行研究の把握に努めた。 その一方で、本研究課題を進める上で不可欠となる、外交と内政の相互関係についても理解を深め、この点に関連して、前5世紀末~前4世紀初頭の外交関係がもたらした社会的影響に論点を絞って、論文として発表した。外交関係、国際関係がもたらすプレッシャーによって、国内の政治的変容が引き起こされる様子を描き出した当該論文は、これまで別個に考察されがちだった外交史・内政発展史とは一線を画すものである。また、国際的紐帯がもつ国内的、社会的意味を考察する本研究課題にとっても大きな意味を持つ。ただし、発表された論文が対象とする年代は限定的であり、今後様々な論点から考察を深める必要がある。 夏期には短期であるが、ギリシア(アテネ、ペロポネソス、コース)、イギリス(ロンドン)に渡り、関連する碑文及び遺跡の調査、さらに関連文献の調査を行った。国内にはない資料などを活用し、データの蓄積、整理に努めた。この間、Durham大学古典学科Peter J.Rhodes名誉教授、University College London歴史学科Hans van Wees教授、King's College London古典学科Hugh Bowden博士らと意見交換を行った。 12月には、これまでの研究成果を整理し、外交関係、海外との紐帯が国内政治に及ぼす影響について、京都大学で開かれた「古代史研究会大会」において口頭報告を行い、国内の研究者との意見交換を行った。報告では、前5世紀後半から前4世紀のアテーナイ人政治家にとって、国際的な紐帯が、国内での活躍にどのような役割を果たしたのかについて検討した。これはより精緻化した上で、論文(英語)として発表すべく、準備中である。
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