20世紀半ばに成立し、紆余曲折はありながらも現在に至るイギリス福祉国家は、その起源から、非国家福祉的なるもの、すなわち民間による自発的な非営利の弱者救済活動という分厚いチャリティの層を前提としてきた。この事実は、近年まで研究者の関心をほとんど引いてこなかったのだが、現代と近代、国家福祉と非営利セクターの関係(連続と断絶)を考える上で、根本的に重要である。 そこで本研究は、近代と現代のはざま、換言すれば、国家福祉の萌芽期たる前世紀転換期に焦点をあて、チャリティがいかにして現代につながっていくのかを検討しようと試みた。本年度は、第一次世界大戦期にイギリスで活況を呈した戦争関連チャリティwar charitiesを計量した。具体的には、大戦後すぐの時期に刊行された戦争チャリティの全国リストに記載されていた1万5千件以上のデータにもとづき、前年までに質的に追ってきた戦争チャリティを、チャリティの総量、地理的分布、救済目的の傾向、救済母体の類型などによって補完した(その成果は、近いうちに論文の形で公表する)。 これまで3年にわたって遂行した当研究により、20世紀におけるチャリティの持続を決定づけた原因のひとつとして、これまで言われてきた大衆貧困状況や大衆の政治的影響力の増大(選挙権の拡大など)だけでなく、未曾有の総力戦となった第一次世界大戦の果たした役割の大きさを理解することができた。総力戦は国家の財政規模を極端に増大させ、それがのちの国家福祉を可能とする巨額の財政支出に対し、国民と政府を慣れさせたということはこれまでも知られていたが、このたびの研究は、そのような突発的な事態が、民間のエネルギーの劇的な増殖・再活性化をもたらしうることをも示唆する。
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