初年度にあたる22年度は、ICU図書館所蔵のオンライン・リソースEEBOを活用し、また夏季に約4週間の在英史料調査を行い、研究史整理と資料収集に取り組んだ。具体的には、1670年代の「排除危機」の最中に紛糾したシャフツベリ伯裁判とロンドン大陪審に着目し、ホウィグ、トーリの両陣営によるパンフレット、政府文書、書簡などから、事実関係と背景を把握し、事件に対するロンドン市民の反応を検討する手がかりを得た。その中間的成果については、口頭で報告、討議する機会をもった(2010年8月、於 英国ケンブリッジ大学クレアホール)。 創成期ホウィグの急先鋒、第1代シャフツベリ伯の訴追は、この時期の一連の王権/トーリによる、ホウィグ有力議員の弾劾裁判のひとつである。ロンドンを管轄する刑事裁判所オールド・ベイリに提出された大逆罪の起訴状は、ホウィグのシェリフの権限のもとで招集されたロンドン大陪審によって棄却された。裁判の前後には、証人や陪審の偽証、収賄が取り沙汰され、公開裁判の様子は逐一ロンドン市民の耳目を集めた。また、無罪放免の報に際して焚かれた篝火は、一連の過程の一種のクライマックスをなした。 こうしたロンドン民衆の事件への関与や大陪審構成員に関しては、古くは政党政治史への関心から、近年では、「復古危機」の一環としての排除危機とロンドン市民という視点から研究が進んでいるが、陪審制や法廷の機能という着眼点から考察した研究はない。来年度は、ロンドン市民、ホウィグ/トーリ有力議員、王権のせめぎ合いを一次史料にもとづいて検討し、この時期の民衆の政治参加と、そこでの法廷の役割を考察することが重要な課題となる。
|