本研究は、民族調査の成果や理化学的分析成果を援用しながら、朝鮮半島とも比較しつつ、西日本の紀元前3世紀から紀元後5世紀までの土器生産と交易および他の器物との分業体制の変化を考古学的に解明することを目的としている。平成22年度は、1.技術・生産体制に関する西日本の検討、2.民族調査成果の分析をおこなうという研究計画をたてた。 1.技術・生産体制に関する西日本の検討については、初期窯出土の土器を調査するとともに、望遠レンズを用いて窯周辺から出土する野焼き土器の黒斑記録もおこない、近畿地域の補足調査をおこなった(兵庫県出合遺跡、大阪府大庭遺跡)。また、これまで忠清道地域で1遺跡のみ知られていた原三国時代の初期的な群集窯が発掘調査されるという重要な発見があったため、平成23年度におこなう予定であった、朝鮮半島の調査の一部を今年度おこなった(羅城里遺跡、雲北洞遺跡、風納土城、〓〓〓遺跡、〓〓〓遺跡)。さらに、近年新たな発掘調査成果と研究の進展により、楽浪郡設置以前の中国東北部の影響が議論されている状況をふまえ、戦国時代後期から前漢までの中国東北部の土器についても東京大学にて調査をおこなった(牧羊城、燕下都)。 2.民族調査成果の分析については、野焼き焼成と窯焼成における土器生産体制の特質や移行形態について検討をおこない、その成果を発表するとともに(1月22日)、さらに整理補足し論文として公表した(3月刊行)。 今年度は、中国東北部の様相をふまえつつ、百済・馬韓地域の技術・土器生産について補強検討し、西日本の渡来土器工人の様相について具体的に検討することができた点で意義が大きい。さらに、民族調査成果についても整理検討し、考古資料への援用の基盤研究をおこないった点も今年度の重要な研究成果といえる。また、楽浪土器からみた交流や交易、移民の実態、朝鮮半島の土器生産体制の変遷、近畿地域の生産流通構造、民族調査成果の検討成果について、論文、発表にて公表をおこなった点も重要な成果である。
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