本研究は、西日本の紀元前3世紀~紀元後5世紀頃の土器生産と交易および他の器物との分業体制の変化を考古学的に検討し、さらに朝鮮半島と比較考察することによってその特質を解明することを目的とする。最終年度である今年度は補足的な調査と論考の発表および総括をおこなった。 [補足調査]1.木製容器を中心とした木器調査2.韓国での調査(窯の現地調査、大成洞遺跡の楽浪系土器調査、図書閲覧) [論考発表]1.近畿の鉄器導入について、検討結果を発表(SEAA学会)し、論考(2013年5月刊行予定)にまとめた。2.分業化の考察において木器生産研究の把握は不可欠であるが、日本列島の木器の系譜の鍵を握る、朝鮮半島における木器の研究現状について整理した(「韓国における木器研究の現状と課題」)。 [総括]博士論文の内容に本研究成果を加え、著書『弥生時代土器生産の展開』をまとめた。弥生土器生産について多角的な視点から通時的に検討した結果、叩き技法の導入と発達により製作時間が短縮され、後期になると多量生産へと転換することが明らかになった。また、他の器物生産研究成果を合わせて検討すると、水稲農耕が本格化する弥生時代になると、各集落で必要な道具を製作する状況であったが、後期になると各地で鉄器生産が本格的に始まり、木器も集落規模に応じた生産がなされるなど、生産体制が変質し始め、分業化の促進されることがわかった。さらに終末期以降になると、近畿では上位階層者の管理のもとに鉄器が生産され、土器においても集約的生産がおこなわれるなど、一定程度分業化の発達したことが明確になった。また、朝鮮半島では早い段階で窯が導入され、鉄生産がおこなわれるなど、日本列島との技術差が大きいにも関わらず、分業化においては近い時期に画期があることが明らかになり、技術的な達成度よりも政治的な状況が分業化に大きく作用することが示せた点は重要である。
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