平成25年度は、昨年度までに引き続いて、古墳出土品を中心に古墳時代前期に位置づけうる青銅器について、日本列島諸地域の事例のデータ収集を進めた。そのなかでもとくに重要であると思われる資料については実物観察をおこない、製作技術にかんする諸情報を蓄積した。実物観察のおもな対象となったのは、出土数の多い銅鏡である。 さらに、巴形銅器や筒形銅器についてもさらなる観察データの蓄積を進めるとともに、あらたに銅釧についても検討の対象とした。 上記した資料の観察結果をもとに、前方後円墳成立期にみられる多様な青銅器の製作技術を復元的に検討し、各種品目にみる技術的特徴の異同は技術基盤の違いを反映するものとみて、複数の技術系統に根ざして製作された各種の青銅器群が同時期に併存するという点を論証した。さらに、そうした技術系統を異にする青銅器が古墳に副葬される点こそが、青銅器が古墳時代において果たした社会的役割であることを、青銅器にたいする製作の指向性や古墳におけるとりあつかいも考慮して説明し、そこに時代の特質が色濃くうかがえることを強調した。また、古墳時代青銅器の技術革新が、研磨技術だけでなく鋳型製作における割付方式にも確認できることを指摘し、古墳時代前期でも早い時期に画期がある可能性を述べた。 また、銅鏡については、体系的な整理は今後の課題となるが、紀年銘を有する資料について、その製作技術に時期と製作者集団の違いがあることを述べつつ、とくに3世紀第4四半期以降の紀年銘鏡には大きな変革が生していることを指摘した。そしてそうした変化が、系統的に関連性の高いほかの鏡式にもみとめられる点をふまえて、技術的な変化から実年代を付与した。その作業の結果、これまで実年代の定点のなかった古墳時代前期後半について、3世紀末ごろを一つの定点としうるであろうという見通しを示した。
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