渤海の動物遺体の分析作業を、ロシア科学アカデミー極東支部(ウラジオストク市)で実施した。対象としたのは、平成23、24年度の発掘調査で出土したクラスキノ城址の哺乳類を中心とする動物遺体である。ウシやイヌが目立ったが、渤海では初見のラクダの基節骨が確認されたことがもっとも注目された。ラクダの遺体は1点のみと限られるため、ラクダを飼っていたとは言い難く、加工痕もみられないことから、その意図は不明である。しかし、クラスキノ城址が立地した沿岸部とラクダ本来の分布地域である内陸部との関わりをうかがわせる資料である。 さらに平成24年度は、ゴルバトカ城址の哺乳類遺体の分析結果をまとめ、発掘主体者であるロシア科学アカデミー極東支部に提出した。ゴルバトカ城址の報告書は平成25年度に発行される予定である。同城址では、家畜飼育(イヌ、ブタ、ウマ、ウシ)が生業の中心であったが、ノロジカや各種毛皮獣の狩猟も一定度行われていたことが明らかであった。報告では、出土層・動物種ごとの出土総量だけでなく、部位ごとの出土量や推定される死亡年齢、性別、傷、被熱痕、体躯などについても定量的に示した。これにより、イヌとブタは食肉用に特化していたのに対して、ウマとウシは生前役畜として利用された後、死後に食肉用に転化されたことなど、当時の哺乳類利用の具体的様相を示すことができた。これら動物遺体の分析結果に基づくゴルバトカ城址の哺乳類利用については、同研究所で口頭発表した。 加えて、これまでに日本語論文として著してきた、渤海を含めた古代から中世にかけての哺乳類利用や、渤海のイヌ、狩猟活動の原稿に加筆修正した後、英語に翻訳した。いずれも査読を経て、平成25年度以降に順次、ロシア国内の雑誌に掲載される予定である。
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