古代エジプト先王朝時代に出現する硬質土器は、石灰質粘土を用いて焼いた薄くて硬い特徴を持ち、それまでの軟質土器とは全く異なる新たなタイプの土器である。その生産地をめぐっては、レヴァント地方からの伝播を起源とし、模倣生産がエジプト各地で行われたとの見解があるが、その根拠となる実証的研究は皆無に等しく、起源と生産地の問題は全く分かっていないのが現状である。そこで本研究では、考古学的発掘調査と理化学的胎土分析を軸に、先王朝時代の硬質土器の生産地および製作技術の解明に向けた基礎データを得ることを目的に掲げる。本年度の研究概要は以下の通りである。発掘調査は、当時の土器製作および熱利用の技術レベルを理解するため、申請者がこれまで継続しているヒエラコンポリス遺跡HK11C地区にて、2011年3月に実施した。ここではエジプト最古の土器焼成遺構がみつかっているが、本年度はそれに隣接する南側の区域を新たに発掘し、日乾煉瓦の壁体を持つ矩形の遺構を検出した。壁体内部は炭化物や灰、強く被熱した面が広がり、当遺構が熱利用を目的とした施設であると考えられる。ただし、1月末に起きたエジプトの民主化運動の影響で調査期間が短縮されたため、遺構の約半分(7.5x5m)を露呈させるに留まった。一方、胎土分析については、ヒエラコンポリス遺跡でこれまでに出土した硬質土器の内、コンテキストから時期が明らかな資料25点を選び、粉末状にしてICP分析用の試料化を行った。加えて、遺跡周辺を踏査し、石灰質粘土のサンプリングも行った。ICP分析は来年度にカイロにて実施する予定である。
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