本研究は、古代エジプト新王国時代第18王朝中期から第20王朝初期に特徴的な青色彩文土器を対象として、考古学的調査・X線化学分析・製作実験などを行い、製作技術を復元することを目的とする。平成22年度の研究では、エジプト、アブ・シール南丘陵遺跡から出土した青色彩文土器を中心に研究を行い、また比較資料となるルクソール西岸岩窟墓から出土した土器については現地調査を実施した。アブ・シール南丘陵遺跡については、当遺跡の青色彩文土器を対象に昨年度までに実施したX線分析結果を総合し、青色彩文土器の製作技術に関する考察を行った。X線化学分析から、第18王朝後期と同じく、青色彩文土器の青色顔料が第18王朝中期からコバルトによる着色であったことが判明した。また、青色ガラスと青色彩文土器の生産が類似した傾向を示すことから、新たにコバルトを着色剤とする青が土器に用いられるようになった契機としては、トトメス3世による西アジア遠征により、西アジア地域からガラスが導入されたことが指摘される。また、今後の検討が必要であるが、青色顔料に含まれる不純物成分が青色ガラスと異なることから、青色ガラスとは異なる製法もしくは工房で青色彩文土器が製作されていた可能性が考えられる。本研究の比較資料となるルクソール西岸岩窟墓から出土した土器を対象に実施した現地調査では、青色彩文土器を含む新王国時代第18王朝後期の良好な土器群を得ることができた。土器群には青色彩文土器以外に、赤色スリップの施された皿、壷、焼成痕の残る白色の皿などが含まれており、岩窟墓の掘削に従事した古代の作業員が儀式を行った際に使用した土器群と判断され、当時の青色彩文土器の使用方法やアセンブリッジを示す例として重要である。
|