研究概要 |
6月には京都大学総合博物館で中国出土と伝わる琵琶形銅剣およびT字形剣柄について資料調査をおこなった。いずれも朝鮮青銅器文化の直接的起源となるもので,とくにT字形剣柄については本研究課題の重要主題である凹文鋳造技術の起源を解明するための重要な資料と位置づけられる。8月にはベトナムに赴き,青銅器を中心に各地の資料を見学した。ベトナムの文化は中国文化の周辺という点において朝鮮との共通性があり,中国文化の伝播・在地化プロセスを考える際に参考資料と位置づけた。動物文の表現・施文方法に朝鮮との共通性を見いだすことも出来た。9月には韓国で多鈕細文鏡が多量に出土した遺跡に赴き現地を見学した。青銅器所有の在り方に再考を迫る遺跡を直接みることが出来たのは有意義であった。10月には中国遼寧省を訪れ,藩陽・本渓・撫順など各地の研究機関や博物館を訪問した。とくに最新の戦国時代鉄器資料を実見でき,鉄器の伝播と青銅器の変化について着想を得た。 また12月には研究費外ではあったが,韓国を訪れ,京畿道博物館で遼寧古代文明展を見学した。中国では見ることが難しい資料が一堂に会しており,とくに藩陽鄭家窪子遺跡の資料をみることが出来たのは大変有意義であった。 今年度の大きな成果は,朝鮮青銅器文化の起源地である中国遼寧省の青銅器文化について多くの知見が得られたことである。とくにこれまで断絶と理解された中国東北地方と朝鮮の凹文施文技法について,中国東北地方における「変化」がある程度把握できる見込みが立ち,両地域の完形をより具体的に整理するための手がかりが得られた。平成23年度のアジア鋳造技術史学会において,この部分についての見解を発表する予定である。
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