研究概要 |
縄文時代の人々が高度な植物利用技術を有していたことは一般的に理解されつつある。しかし,それぞれの種の利用が「いつ」,「どのように」始まったのか,縄文時代以降の「環境変遷史」とどのように関係していたのか。これらの諸点については十分には議論されていない。そこで,縄文時代の遺跡出土植物遺体などの^<14>C年代測定を重点的に行い,資料の帰属年代を明確化していくことが必要不可欠である。 平成22年度は鹿児島県東黒土田遺跡の貯蔵穴出土堅果類,鹿児島県西多羅ヶ迫遺跡・上床城跡遺跡の草創期および早期土器付着物,岡山県津島岡大遺跡出土マメ圧痕土器の付着炭化物,東京都下宅部遺跡の縄文時代中期のウルシ内果皮および後期のウルシ材などの分析を行った。 東黒土田遺跡の貯蔵穴出土堅果類は約13400年前のもので縄文時代最古であることを再確認した。西多羅ヶ迫遺跡および上床城遺跡の資料については土器内面・外面から採取した付着炭化物の分析を行い,縄文時代草創期から早期の南九州の土器利用を考える上で重要な分析結果が得られた。出現期の土器の利用と植物質食料資源利用との関係性の解明は極めて重要な課題であり,現在群馬県白井十二遺跡の土器についても分析を進めている。津島岡大遺跡の縄文時代後期のダイズ圧痕土器の付着炭化物の分析では,土器で植物質の資源を煮炊きしていたこと,炭化物にやや窒素を多く含むことなどが分かった。ダイズ属圧痕土器はレプリカ法の普及によって検出例も増えてきているが,付着炭化物によって煮炊きの内容物の検討が行われたのは今回が初めてである。下宅部遺跡のクルミ塚から出土したウルシ内果皮の^<14>C年代測定では,縄文時代中期からウルシの木が遺跡周辺に生育していた可能性があることがわかった。また,漆掻き痕跡のあるウルシの杭が多数見つかっているが,新たに見つかったウルシ杭1点の^<14>C年代測定を実施し,縄文時代後期前葉に位置づけられることを示した。
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