本研究は、九州の後期旧石器時代後半期の人間集団の行動パターンや領域について、石器技術論と石材消費論から明らかにしようとするものである。 研究初年度にあたる本年度は、ナイフ形石器群終末期に関する分析を行った。集成遺跡数34遺跡について、技術分析と石材利用について考察した結果、以下のような成果が得られた。 (1)当該期には大きく4群に区分できる石器群が存在しており、これは地域性をもって分布する。 (2)後出の細石刃石器群との関係を述べると、石器技術については後出石器群と類似性が強いが、石材消費については相違点も多く認められた。ただし、4群のうち小型台形石器群(3群)については、遠隔地産石材が広域展開するという石材消費が、細石刃石器群との類似性が高く注目される。 (3)3群以外では、遺跡近傍産石材が多用される傾向が強い。特定石材の選択的利用も見られず、行動領域も50km圏内に収まる。細石刃石器群では100km前後の領域を有していた可能性があるため、それと比較すると、領域規模はかなり小さい。 (4)したがって、分類された4つの群は単に地域差ではなく時間差も考慮される。細石刃石器群との接続を考慮すると、3群が最も後続する可能性が高い。 このうち、(1)については先行研究をほぼ追認し、(2)~(4)は新たな知見である。これまで、細石刃石器群との関連性は、石器技術のみに視点が注がれていたが、石材消費論も分析の中核にすえることで、より具体的に石器群間の差異を抽出でき、新たな研究を展開できる。
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