本研究は、九州の後期旧石器時代から縄文時代初頭における、人間集団の移動・居住システムおよびその変遷過程を明らかにするものである。これについて、とくに南九州の石器群を対象として、黒曜石を中心とした石材消費分析および遺跡分布分析を適用した。その結果、まず黒曜石利用については、後期旧石器時代中に3回の画期が見出された。1回目は黒曜石利用の始まり(後期旧石器時代前半期前葉)、2回目は遠隔地産黒曜石の流入(同後半期前葉)、3回目は良質黒曜石利用の広域化(同後半期末葉)である。次に、遺跡分布では、その変化が遺跡の増減に伴って断続的に起こっていたことが明らかとなった。すなわち、前半期の増加局面から、姶良火山噴火による一時的な遺跡の激減、しかしその後の急増と、後半期中葉から末葉にかけての激減、末葉の急増である。この石材消費と遺跡分布動態の変化は、概ね連動しており、密接な関連が考えられる。これは、環境変化などをトリガーとした、人間集団の移動性の高低や居住パターンの変化が背景にあると考えられる。
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