本研究は、沖縄県を事例に担い手の行動パターンや意思決定に着目して伝統工芸の生産が維持継承される地域のメカニズムを解明することを目的としている。平成22年度は、文献を収集し本課題の理論的研究を進めつつ、平成22年8月9月及び平成23年3月に長期調査を実施し、読谷村(読谷山花織)と八重山諸島(八重山ミンサー・上布)にて現地関係者の聞き取りや織物を生産する担い手のライフヒストリーを収集した。収集データを検討した結果、読谷山花織の戦後の復興事業は、本土復帰以降の地場産業の活性化など経済的側面をもつ以上に、基地返還に関わる平和事業としての政治的側面、さらには、婦人会による戦後のコミュニティ再生活動としての社会的側面を合わせもつことが明らかとなった。また、これら読谷村の社会的・政治的背景を反映して、復興期に生産に参入した担い手と1980年代以降に参入した担い手のライフヒストリーは、その経歴のみならず花織に対する価値観、地域への帰属意識に差異がみられることが明らかとなった。1980年代以降に参加した担い手は経済活動としての花織を評価しており、一方近年の担い手はIターン者が多く、花織を趣味的な活動、あるいは生産に携わることを旧住民の交流の場として位置づけている。これら担い手の差異は、生産される織物にも影響しており、文化事業に端を発し歴史的な織柄を重視しつつも、沖縄海洋博以降は沖縄を表象する色鮮やかな小物製品も増え、一方近年ではむしろ沖縄らしさを抑え、和装に合う伝統工芸品へと変化しつつあることが指摘できる。これらの研究成果は、平成22年11月3日「都市と農村の未来を考えるセミナー」、及び平成23年3月30日「日本地理学会春季学術大会」にて発表した。また、読谷山花織など地場産業を活かした読谷村における観光まちづくりについて平成23年2月14日「松山観光まちづくりシンポジウム」にて発表した。
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