研究課題/領域番号 |
22720309
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
井口 梓 愛媛大学, 法文学部, 特命准教授 (50552098)
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キーワード | 地域文化 / ライフヒストリー / 担い手 / 琉球織物 / 沖縄県 |
研究概要 |
本研究は、沖縄県を事例に担い手の行動パターンや意思決定に着目して伝統工芸の生産が維持継承される地域のメカニズムを解明することを目的としている。平成23年度は、2月~3月に本島と石垣島・竹富島・西表島で長期調査を行い、八重山ミンサーの生産関係者の聞き取りや織物を生産する担い手のライフヒストリーを収集した。その結果、八重山ミンサーの特徴は、八重山諸島一帯における観光化と民芸土産ブームを背景に、現代的な小物2次加工開発によって急成長した点であり、一方で現代的な洋装加工が増加するにつれて、ミンサーの典型的な緋柄(五と四の花緋)が八重山諸島の歴史性を象徴するデザインの役割を果たすようになったことが明らかとなった。この現代性と歴史性を併せ持つようになった契機は、A氏のライフヒストリーの分析から読み取れ、A氏が出身地である竹富島に織物と自身のルーツを重ね合わせていること、また自身の洋裁技術を活かし、石垣島で洋装店を経営しながら女性の洋装ファッションの先駆者として活動してきたことが、現在の八重山ミンサーの位置づけに影響していると考えられる。この両義性は、「八重山ミンサー」を国指定伝統的工芸品に指定する際にも関係しており、竹富島に人重山ミンサー発祥の歴史性を追求しつつも、小物生産の事業所が多く立地する石垣島を含め「八重山」呼称を指定に用いるなど、今後の観光と地場産業振興を見据えた動きを指摘できる。これら伝統工芸をめぐる現代性については、公文書館等で収集した国指定伝統工芸に関する資料や各織物産地の事業報告などからも確認することができた。これらの研究成果は、平成23年9月23日日本地理学会秋季学術大会ほか2件で発表した。また、竹富島や石垣市白保地区における観光まちづくりや地域文化継承の取り組み、および地元学の活動について、平成23年6月22日「愛媛県ふるさとえひめ学」ほか4件で講演・発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた織物を生産する担い手のライフヒストリーの収集も順調に進んでおり、石垣市の八重山ミンサーの事業所では、八重山ミンサーが観光化を背景に洋装小物加工へと転向する契機となった時代を裏付ける重要な聞き取り調査を実施することができた。また、これら聞き取り内容を固める郷土資料も、公文書館や国立国会図書館で収集することができた。県内産地の比較検討を念頭に、宮古上布や首里織の調査、新興産地(豊見城市)の調査も進めている。発表による成果の公開も順調に進んでおり、今後は学術論文による成果の公開に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究の最終年度であり、読谷山花織、八重山ミンサーの調査結果を学術論文による成果の公開を進める。学術論文は、和文誌のみならず英文誌の投稿を準備中である。また、実証研究も引き続き実施する。八重山ミンサーを生産する残り2箇所の事業所と西表島のIターン生産者についても、今年度中に聞き取り調査を実施し、八重山諸島におけるミンサー生産者の調査を完了する,現在までの2ヵ年度の調査を通して、琉球織物は地場産業の側面よりも女性のコミュニティ活動との結びつきが強いことが分かったため、琉球織物の維持継承システムとして、女性による地域づくりの観点からも成果をまとめる予定である。
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