研究概要 |
本研究は,流通チャネル(取引経路)内におけるパワー関係と,物流システム研究における「トータルコスト」の概念に着目して,日本の流通システムの持つ空間構造の特質を考察することを目的に構想されたものである。研究の具体的な目的は,近年,卸売業者を中心とした中間流通業者が主導的な立場に立って改編を進めている書籍物流システムの空間構造を,それを利用する小売業者・中間流通業者,物流業者等のパワー関係に注目しつつ,その「効率化」がいかなる論理の元で行われてきたのかを明らかにすることにある。本年度行った活動は以下の通りである。まず第1に経済地理学に加え商学、マーケティング論など隣接諸科学も含めた文献資料の収集と精読を行った。第2には,大手取次会社に調査を依頼し、書籍物流システム見学を行っている。この過程で、書籍流通ではネット通販でも、基本的には取次会社の物流システムが利用されていることが明らかになった。リアル書店では雑誌の販売が経営上重要な意味を持つ。これは、定期刊行によって在庫回転率が安定していることに加え、同一銘柄で非常に大量の販売が見込めるためであるが、ネット通販では雑誌の販売は少なく、主として書籍の購入のために利用されている。しかも、ネット通販ではリアル書店に比べて注文が分散する傾向があり、いわゆるロングテール商品が販売の少なくない部分を占める。このことから,ネット通販では消費者の商品検索率を高めるためにも多種類商品の在庫確保が不可欠であり、その保管のために巨大な倉庫を保有することが必要となる。我が国の書籍流通においては近年ネット通販の比重が増加しつつあるが、ネット通販においても取次会社の構築する物流システムが重要な役割を果たしていることを明らかにしたことは、本研究の重要な成果の一つであると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでに得られた知見を精緻化していくとともに、新たに国内4カ所について聞き取り調査,施設見学を実施する予定である。この作業を元に書籍物流システムの改編が当初目指していた「効率化」が,それを利用する企業にとってどのような意味を持っているのかを検討する。また,引き続き大手取次会社に対する補足調査もあわせて行う。書籍物流システム再編によって生じた企業間のコスト負担構造の変化に関して調査・分析を行う予定である。また,書籍物流システムの改変と「効率化」,さらにそれによって生じる企業間の対立・協調局面に関する論文投稿を行う。また,本研究の成果を踏まえた継続的な研究のために,必要な研究資料の整理を行う。
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