本研究は,流通チャネル(取引経路)内におけるパワー関係と,物流システム研究における「トータルコスト」の概念に着目して,日本の流通システムの持つ空間構造の特質を考察することを目的に構想されたものである。研究の具体的な目的は,近年,卸売業者を中心とした中間流通業者が主導的な立場に立って改編を進めている書籍物流システムの空間構造を,それを利用する小売業者・中間流通業者,物流業者等のパワー関係に注目しつつ,その「効率化」がいかなる論理の元で行われてきたのかを明らかにすることにある。 大手取次会社を対象とした調査において、1990年代後半以降、大規模拠点施設の建設による在庫集約化が目指されていることが明らかになった。これは、在庫検索とその仕分け・欠品確認等の作業が集中的に行われる程、作業効率が向上することが明らかになったからである。書籍のアイテム数は増加の一途を辿る一方、その形状の多様化や少部数化が進行しているため、物流にかかるコストは上昇している。このため、取次業界における物流効率化への意識は、極めて高くなっている現状がある。 物流拠点の立地は、出版社・印刷所から距離的に近く、全国配送の拠点にふさわしい交通網が整備れている場所で、なおかつ大規模用地が獲得しやすいといった条件が求められており、従来東京都心部に立地していた物流拠点の立地が郊外化していることが明らかになった。このため、大手出版社が自社在庫をこれら大手取次会社の物流施設内に保管することで、リードタイムの短縮を図っている。このように、書籍物流システムの効率化は、取次だけでなく出版社や運送会社など関係諸機関を広く巻き込む形で行われている。 書籍流通は依然として、消費者からの注文に対する即応性という面において極めて問題が多く、その解決のためのコストを関係諸機関でどのように負担するべきかについては今後も議論を呼ぶであろう。
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