研究概要 |
主な研究目標は,(1)経済地理学および隣接分野における地域労働市場概念の整理(2)統計資料の分析による労働市場の地域構造の変容の把握(3)対象地域での資料収集と予備調査であった.(1)については,昨年度執筆したレビュー論文を発展させる形で,欧米における「労働の地理学」の最近の展開についてフォローした.日本同様,欧米でも派遣や請負などの間接雇用が増大している.「労働の地理学」では,そのことを単なる新奇な現象とは捉えず,新自由主義下での労働市場の本質を表すものと捉えていた.この点について,間接雇用に関する自身の実証研究を踏まえて再検討した結果,間接雇用の増大に目を向けずして,現代地域労働市場を理解することはできないと思うに至った.これを踏まえ,大分県内の自治体でフィールドワークを実施し,2008年秋の雇用危機の際に失職し,自治体の緊急雇用対策窓口を訪れた人の面接記録を入手した.これについては現在分析中である.(2)に位置づけた統計分析と,東北ならびに九州で行ったフィールドワークの結果,製造業の雇用が乏しい地域労働市場においては,医療・福祉を含む広義の公共セクターの雇用が重要な位置を占めていることが分かった.しかし公共セクターの雇用は相対的に高学歴層に振り分けられるため,低学歴の,特に男性は,地域労働市場の中で劣位におかれる恐れがある.現在九州(大分県・宮崎県)で若者に対して行ったインタビュー調査を基に,公共セクターで働いた経験が若者のキャリア全体の中でいかなる意味を持つのかについて分析している.(3)については,主として大分県立図書館や大分県庁において,地域統計や行政資料を中心に収集した.
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