研究概要 |
2011年度は,間接雇用の増大の実情とそれが地域労働市場に及ぼす影響に関して理論的研究および実証研究を行った.労働力は他の商品と本質的に異なる擬制的商品であるため,それが分配される場である労働市場は多元的な社会的調整なしには存立しえない.労働力商品の特殊性のうち,経済地理学において特に重視すべき特性は,労働者から切り離して流通させることができない点である.こうした認識のもとで,図書『産業立地と地域経済』(分担執筆)においては,戦後日本の労働市場を経済地理学的に分析する視覚を提示し,そのうえで実証分析を行っている.理論的研究については,資源論の枠組みを摂取して,労働力を巨給する労働者と労働力を需要する資本とを結びつける媒介項に着目しながら,戦後日本の労働市場の変容を跡付けた書籍(分担執筆)の刊行に向け,原稿を執筆している.そこでは,バブル崩壊後の労働市場において,労働力需給の空間的・時間的ミスマッチを乗り越える媒介項として,派遣・請負業者が存在感を増していると主張した. 2010年度に行った調査では,大分県のある自治体においてリーマン・ショック後の緊急雇用相談窓口来訪者に関する詳細な資料を得ることができた.2011年度はその分析を進め,雇用調整に遭遇した多くの労働者のうち,窓口来訪者がなぜとりわけ困難な状況に至り,自治体の支援を仰がなければならなかったのかを明らかにする論文を執筆中である.また現在,第三セクターや介護・福祉部門などを含む広い意味での公共セクターにおける雇用創出が注目を集めつつあるが,創出される雇用機会は非正規で期限付きのものがほとんどである.そこで,自治体の雇用政策の中で公共セクターがどのような位置づけを与えられているのかを検討するとともに,公共セクターの非正規職員として働くことが,若年者のその後のキャリアにいかなる影響を及ぼすのかについて,パイロットスタディを行った.
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今後の研究の推進方策 |
研究を推進する過程で,ポスト農家兼業の時代における地域労働市場を分析する上では間接雇用に焦点を当てることが重要であるとの認識に至り,現在はその分析に力点を置いている.今年度は当初重視していた医療・福祉部門を含めた公共セクターについて,そこで創出された雇用が地域労働市場の中でいかなる位置づけにあり,そうした職に就くことが若年者のその後のキャリアにいかなる影響を及ぼすのかについて明らかにする. 本年度は本助成事業の最終年度であるため,現在執筆中の理論的・実証的論文を完成させる.また,これまで実施してきた実証研究を,「労働の地理学」の研究潮流に位置づけ,単著として刊行する準備を進める.
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