2012年度は,研究の重点をこれまでの研究成果を刊行するための準備に置いた.まず,すでに刊行した「労働の地理学」に関するレビュー論文および『現代日本の資源問題』所収の論文を基に,経済地理学において労働力および労働市場を分析する枠組みについての検討を行った.労働力は他の商品と本質的に異なる擬制的商品であるため,それが分配される場である労働市場は多元的な社会的調整なしには存立しえない.労働力の特性のうち,特に重視すべき点は,労働者から切り離して流通させることができない点である.そのことが,一般的な意味での地域労働市場(local labor market)成立の根底にある.さらに,労働力は,その特性から需給における空間的ミスマッチと時間的ミスマッチの克服が難しく,他の商品では見られないスキル・ミスマッチも発生する.これを乗り越えるために,労働市場にはさまざまな媒介項(labor market intermediaries)が発達する. こうした認識に立つと,高度成長期において新規学卒者が学校を媒介項として大都市圏へと大量に移動したのとは対照的に,主に農家労働力を包摂する地域労働市場(rural labor market)が展開した安定成長期は,雇用機会の側が非大都市圏に進出することで,空間的ミスマッチが克服された時期であると理解できる.これに対してバブル崩壊後の労働市場においては,労働力需給の空間的ミスマッチを乗り越える媒介項として,派遣・請負業者が存在感を増している.また,間接雇用は,雇用調整が容易であるため,使用者にとっては時間的ミスマッチ克服の手段としても大きな意味を持つ. 実証面では,非大都市圏における重要な雇用機会となっている介護・福祉部門を含む公共セクターにおいて,どのようなキャリア形成機会が提供されているかについて調査を実施した.
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