本年度は,昨年度に引き続き古代都市長岡京を主要な研究対象地域として,GISを活用した遺構データベースの構築を実施した。長岡京域には,向日市,長岡京市,京都市,大山崎町が含まれる。そのうち,向日市埋蔵文化財センターおよび向日市教育委員会から発掘調査を発掘調査報告書の提供を受けることができた。本年度は,これらの提供された報告書を活用して,前年度までに構築することができなかった年度の発掘調査報告書のデータベース構築を実施することができた。データベースの構築には,従来通り次の方法が適用された。①遺構図のスキャニング,②遺構図のジオリファレンス,③遺構図のデジタイジング,④属性情報の抽出と入力。遺構図からの遺構の抽出は,調査区,建物,井戸,塀,溝の四つの項目について実施した。現状では,発掘調査区のポリゴン数は約1100,建物のポリゴン数は約270,井戸のポイント約100を数える。建物および井戸については,それぞれの遺構の規模や時代に関する属性情報が与えられている。その結果,大規模な建物の分布状況や井戸の深さの地理的分布を把握することができ,都市構造および都市の古環境を地図化して空間的に推測する手がかりを獲得することができた。 平城京においても,構築したGISデータベースの建物の規模,塀の構造,井戸の深さの情報から,都市構造や古環境を地図化して空間的に推測することができることを確認した。例えば,建物の面積や塀の構造(築地塀・板塀)など,各データのレイヤを重ね合わせて表示することによって,一坪単位の街区の土地利用の特色を可視化することが可能となった。 なお,以上の研究成果については,奈良女子大学古代学学術研究センターやパリ大学で開催された研究会およびワークショップで報告した。
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