本研究は、基礎研究と方法論の提示が求められている漁業史研究を深化させながら、歴史史料(絵画資料を含む)と聞き取り調査を組み合わせた方法論の確立をめざしておこなわれるものである。申請者は、日本列島、東アジア、東南アジアにおける漁撈活動、漁業経済に関する歴史地理、文化地理的研究を進めている。本研究は、(1)回游魚と人との関わりについて漁業絵図・史料と現地調査に基づく歴史地理学研究を南九州、南西諸島でおこなう、(2)回游魚利用をめぐる比較文化論(日本とアジア、アジアとヨーロッパ)、(3)漁業史研究における歴史資料とインタビュー記録との結合を目指した方法の確立を目指すことを目的としている。 本年度の調査研究成果は国内調査と国外調査に区分される。国内調査は、古文書資料調査を鹿児島県奄美市立博物館に寄託されている童虎山房文庫(原口虎雄鹿児島大学名誉教授の文庫)でおこない、水産関係資料の目録化を進めた。さらに国立民族学博物館において物質文化資料の調査をおこなった。現地調査は、千葉県房総半島、熊本県荒尾市、長崎県平戸市生月島、鹿児島県枕崎市、薩摩川内市甑島地方の回游魚利用と漁村構造の調査、福井県三方郡常神半島において正月の回游魚利用の儀礼の調査をおこなった。国外調査は、シイラ(鬼頭刀、飛虎魚)資源の漁獲生産高が世界で最も高い台湾において国立高雄海洋技術大学の協力を得て水産会社と台東県成功鎮、屏東県東港、宜蘭県南方澳の漁村の漁会を訪問し、カジキ(旗魚)、シイラ、トビウオなどの回游魚漁業・利用実態に関する調査をおこなった。さらに地中海のマルタを2週間にわたり訪問し、シイラ(ランプーキ)漁業と食文化とマグロ蓄養漁業の実態調査を臨海集落でおこなった。海洋研究所においてロベルト所長はじめ研究者と情報交換をおこない、マルタ大学図書館で当地のシイラ、マグロ漁業史に関する研究文献と博士論文の調査を実施することができた。学会報告は、地域漁業学会、早稲田文化人類学会でおこない、研究の経過報告については、各ジャーナルに投稿をおこなった。
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