4月に京都大学において本研究課題に関するセミナーを実施し、申請者と研究協力者である米澤隆弘氏(復旦大学、上海:進化生物学)、アフリカ熱帯における野生動物保護の事情に詳しい西原智昭氏(WCSコンゴ)が講演し、アフリカ熱帯地域や野生動物の事情に詳しい研究者らを交えて活発な議論がなされた。そのほか、5月に開催のアフリカ学会と国際民族生物学会において研究成果を発表した。 夏期に実施したカメルーン東南部における現地調査では、マルミミゾウの生息域へ足を運び、ピグミー系狩猟採集民バカのゾウ狩猟者「トゥーマ」や若い世代の狩猟者からゾウにまつわる民族知識や近年の密猟問題、狩猟の規制等についての聞き取りを行った。これまでの広域調査を含む調査結果の蓄積を踏まえ、地域的にゾウ狩猟が文化的・社会的に意義があることが明らかになった反面、密猟や森林開発に伴うマルミミゾウの個体数減少が危惧される中で葛藤する姿が鮮明になった。 米澤氏との共同調査では、現生アフリカゾウ(Loxodonta属)の遺伝的多様性とその時系列的な推移を明らかにするためにカメルーン東部州の数カ所においてマルミミゾウ(L. africana)の糞サンプルの予察的なサンプリングを行った。データベース(NCBI)に登録・公開されているミトコンドリアDNA塩基配列データと我々自身が決定した塩基配列データを合わせて、マルミミゾウ、サバンナゾウ(L. africana)両集団の有効なサイズの経時的な変化をBayesian Skyline Plot法で推定した。その結果、マルミミゾウは歴史的に集団サイズが大きく過去150万年間ほとんど一定であったことが示された(Nefすなわちメスの集団の有効なサイズはほぼ20万頭)。その一方で、サバンナゾウの集団のサイズは過去20万年ほどで急激に大きくなったことが示唆された(1万5千頭から15万頭に増加)。
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