本研究課題では、中華人民共和国における「住民自治」についてムスリム・マイノリティの事例を中心として調査・研究した。研究代表者はこれまで中国のムスリム・コミュニティの組織原理や組織運営について個別具体的な研究を進めてきたが、そこへ「住民自治」という新たな研究視点を導入し、現代中国における党国家とムスリムの関係性を理論的に考察することにした。 2012年度は、2011年度にひきつづき、日本国内および中国の主要な教育・研究機関で改革開放期の中国における「住民自治」の政策(例えば「社区建設」や「村民委員会選挙」などに関する先行研究)、民族・宗教政策に関する基礎的な文献資料を収集した。 現地調査としては、中国の新疆ウイグル自治区および内モンゴル自治区において清真寺(モスク)とムスリム・コミュニティに関する現地調査を実施した。新疆ウルムチ市では、ウイグルの集住地域にある清真寺や聖者廟を訪問し、2009年の7・5事件後の宗教活動状況を調査し、また、日々の宗教活動を参与観察し、新疆の民族・宗教政策にみられる地域的特徴を把握した。一方、内モンゴルでは、フフホト市回民区にある清真寺やイスラーム教協会を訪問し、かつ、イスラームの断食明けの祭りを参与観察し、ムスリム・コミュニティの運営状況および国家主導の民族・宗教政策の実施状況を調査した。前者の新疆ではウイグルは1949年建国以来、中央・地方政府の監視・統制対象となっており、清真寺やムスリム・コミュニティに関しては自律性が確保されていないといえる。このことは、後者の内モンゴルのムスリム少数民族(主に回族)とはきわめて対照的な現象であり、注目に値する。 今後の課題としては、漢族や非ムスリム・マイノリティのコミュニティ運営の具体的状況に対しても注意を払いながら、中国共産党の国民統合とコミュニティの関係性を明らかにする必要がある。
|