研究課題/領域番号 |
22720333
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
堀口 佐知子 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (30514541)
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キーワード | ひきこもり / メンタルヘルス / 人類学 / 医療化 / 当事者 / 精神医療 / 発達障害 / 精神障害 |
研究概要 |
本研究は、「ひきこもり」当事者(本人及び家族)・支援機関(公的及び民間)・医療機関へのインタビューを首都圏・名古屋周辺地域で行い、「ひきこもり」の医療とのかかわり、医師や支援者の(医療的)処置をめぐるジレンマ・混乱を明らかにしつつ、医療化の包括的検証を行うことを目的とした3年間のプロジェクトである。前年度は名古屋周辺地域の医師・民間支援者に重点を置いたのに対して、調査2年目の本年度は、首都圏の「ひきこもり」当事者や家族(親・きょうだい)及び公的支援従事者に対するアプローチを積極的に行い、聴き取り調査を実施した。今年度は、前年度得られた支援の地域差や診断名をめぐる揺らぎなどの知見の洞察が深まるとともに、さらに以下の知見が得られた。 1公的支援の充実度の地域差が顕著であること。2当事者の中には、診断名ではなく「ひきこもり」カテゴリーに自己同定する者や、障害年金などの社会資源に繋がる戦略として診断名を受け入れる者がいること。3当事者には、公的ガイドラインで提示されているような段階的支援モデルに対して疑問を呈する者がいること。4「ひきこもり」本人、親、家族のニーズや必要とする支援はそれぞれ異なること。 こうした調査結果について、日本精神神経学会(10月)、シンポジウム「医療人類学の最前線VI診断の揺らぎ:欝のジェンダー & こどもの心と病~精神医学と人類学の対話から」(慶應義塾大学1月)などにおいて報告を行い、R.Goodman,Y.Imoto,T.Toivonen(eds) A Socioligy of Japanese Youth: From Returnees to NEETS (2011)所収論文"Hikikomori: How Private Isolation Caught the Public Eye"として発信することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インタビュー調査をおおむね順調に進めることで、「ひきこもり」医療化について新たな知見が確実に得られてきている。また、その成果について、人類学・精神医学の研究会・学会において報告とディスカッションを行う機会を持ち、研究成果を発信しながらさらに分析を深めることができている。現場に対する研究成果のフィードバックは現在のところ限定的であるものの、最終年度に十分に行う機会が得られる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は最終年度であるため、これまでの調査の成果について、精神医学・人類学系の学会での報告を継続し、分析をさらに進めるとともに、1「ひきこもり」をめぐる言説及び政策2「ひきこもり」支援・当事者コミュニティ・精神医療・保健の現場における実践の2つに関して、特に英語論文による発信の準備を進める予定である。なお、当初の計画では研究成果をウェブ上で公開する予定であったが、研究者や調査対象者の方々からの助言も踏まえ、個人情報保護の観点から公開は取りやめることとする。平成24年度中には「ひきこもり」支援の現場(支援機関や家族会など)からの招聘で報告を行うことが決定しており、そうした場での報告を通して「ひきこもり」支援現場やコミュニティへの成果のフィードバックを通した実践に対する貢献をすることが可能となった。また、平成24年度後半には調査対象者に対して個別に調査結果のフィードバックを行う予定でもある。
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