本研究は、「ひきこもり」当事者(本人及び家族)・支援機関(公的及び民間)・医療機関へのインタビューを首都圏・名古屋周辺地域で行い、「ひきこもり」の医療とのかかわり、医師や支援者の(医療的)処置をめぐるジレンマ・混乱を明らかにしつつ、医療化の包括的検証を行うことを目的とした3年間のプロジェクトである。前年度でほぼインタビュー調査は終了したため、今年度は、さらなる分析を行い、「ひきこもり」支援機関における講演などの形で現場へフィードバック、同時に精神医学、哲学、カウンセリング、医療人類学、文化人類学などの学会発表や執筆に当った。今年度の考察の中で特記しておきたい点は以下の通りである。 1「ひきこもり」当事者、そしてそれぞれの抱える当事者性には多様性があり、社会規範に対する違和感を抱くことがある一方、「普通」であることへのこだわりが強い者もみられ、そうしたジレンマが、医療・障害とのかかわりに対するアンビバレントな姿勢を生む側面があること2高年齢化が進み、長期的支援の必要性が高い「ひきこもり」支援の現状にあり、近年民間NPOへの委託などの形で拡充しつつある「ひきこもり」をめぐる公的支支援は、縦割組織や単年度予算、成果主義的視点から「ひきこもり」を捉えることの問題点を抱えている。 研究成果について、日本精神神経学会(5月)、East Asian Anthropological Association学会(7月)、日本カウンセリング学会(10月)、Tribal Cultures and Health Communities Seminar (インド、1月、招聘講演)や全国引きこもり家族会・支援者代表交流研修会第8回京都大会(招聘講演)などにおいて報告を行い、『こころの科学』所収論文(「ひきこもり」ラベルをめぐるダイナミクスと戦略:「障害/非障害を超えて)などとして発信することができた。
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