本研究では、日本とフィリピンの間を移動し続けているフィリピン人たちが、日比にトランスナショナル関係を継続して拡大していく過程に注目している。今年度は次の2つの事柄に焦点を当てた。 ①既婚女性の社会関係の拠点となるカトリック教会にあるフィリピン人組織への参与観察調査を実施した。この組織は、近年、市の国際交流委託事業を運営しているカトリック系法人の施設登録団体となり、活動の拠点としている。すでに述べたように社会階層など様々な状況が多様になってきた在日フィリピン人を反映するかのように、契約芸能移住労働者を経験していない新しい世代のフィリピン人が活動を担いつつある。また、日本に長年定住しているフィリピン人たちが、日本人の支援者たちと協働しながら、②の経緯で来日した「新しい」フィリピン人を対象とした支援企画などを行っている。 ②「新しい」フィリピン人が就業し、居住する地域にある公立学校への調査を実施した。日本人と何らかの親族関係を持ち、就労可能な在住資格や日本国籍を保有しているこれらの人々及びそのこどもたちは、国際的な人材派遣会社を通じて、本研究が拠点としている京都市の一部の医療施設に介護補助労働に従事している。親子は施設の付近に居住し、こどもたちを受け入れている公立小中学校では、こどもへの日本語支援、親への日本の教育の理解への活動を行っている。しかし、経済状況、長時間労働による人間関係の制約、日本社会に適応する機会の不足、①で触れたフィリピン人組織に参加する機会の制約などがあり、フィリピン人の間に社会関係の棲み分けがみられつつある。また、年を追うごとにこの様な「新しい」フィリピン人が増加している。 これらの成果は報告書にあるように公表した。今後、未発表分をしかるべき場において論文として報告する。
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