本研究は、日本国内における先住民族(北海道日高地区在住のアイヌ民族)に帰属し、精神障害を抱える人々を主対象とし、彼らが始めようとしている新しい自助グループ活動の参与観察を通じて、成員たちの多様な生き方ならびに回復プロセスを明らかにすることを目的とする。 本年度は、対象者が先住民の暮らし方や知恵、音楽や踊りに興味を持つ人々により、アイヌ文化祭への参加が試みられ、その経緯を記録した。アイヌ文化祭への参加を通じ、世代を超えて記憶や知識の共有が図れ、楽しみを共有する取り組みがまず着手され、自助グループとしての集団形成の萌芽的状態がみられた。特に、アイヌ文化祭への参加により同行者同志でこれまでどのように暮らしてきたかについて、各人が個別に抱えてきた体験や思いが語られており、参加した人々の仲間を作ってゆくための潜在力の豊かさが示された。また先住民族であり精神障害を抱える人々の自助活動としても、意義深い現象が示された。 これまでの記録の結果、精神障害を抱える人々がアイヌ保存協会の活動に接点を持つ機会が極端に少なかったこと、踊りや歌などの行為が、参加者の共通の関心時となり、世代を超えた交流が活発になったこと、これらの要素がグループ生成期の動機として寄与していたこと、また社会的排除や精神障害に起因する「病気」や苦悩(suffering)の体験や記憶を共有するという側面は自然発生的に生じたことが明らかになった。
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